アナリティクス導入事例

IBM SPSS導入事例:公益社団法人 全国老人福祉施設協議会様

信頼性の高いデータを用いて特別養護老人ホームの社会貢献を分析
エビデンスに基づく介護・社会保障政策の提言を最終目標とする
マクロ・ミクロ分析のIT基盤にIBM SPSSを採用

1925年に開催された第1回の全国養老事業大会を原点とし、老人福祉施設・事業所を会員として、老人福祉および介護事業の健全な発展と国民の福祉増進に寄与することを目的に、2009年に初の公益社団法人として再スタートした全国老人福祉施設協議会(略称、全国老施協)。 一貫して現場の声に立ち、国民の求めに応え公益性を高める事業の推進を志向し、介護・福祉関連の有益な情報を迅速に提供する普及啓発をはじめ、介護保険制度の改正や介護報酬改定等の政策提言等に積極的に取り組んでいます。

介護現場における優れた実践を最大の拠り所(エビデンス)とし、高い公益性と政策提言力に基づいた、未来思考の情報発信を目指す全国老施協は、長年にわたり蓄積したデータと信頼性の高い公開情報を分析して、エビデンスに基づく政策決定(Evidence Based Policy Making:EBPM)の実現に向け取り組んでいます。データ分析のために、新たに構築するIT基盤としてIBM SPSSを採用すると共に、全国老施協内部での体制を整えた結果、データ分析の結果から介護給付費や社会保障関連施策の動向に関する新たな知見を得て、社会保障関連施策の提案に必要な基礎情報を取得する仕組みを構築するなど、大きな導入効果をあげました。

導入前の課題:介護・福祉の質を高めるための政策提言に求められるエビデンス

高齢者の介護・福祉に関わる全国で約11,100の施設・事業所に携わる事業者団体の質を高めることが全国老施協の大きな使命です。施設の利用者とその家族、約35万人の介護従事者の便益を高めるために、介護の現場が抱える様々な課題を全国老施協が整理し、解決策やあるべき姿を国に提言しています。また、介護従事者に対し、研修等を通して自らの質を高めることにも積極的に取り組んでいます。

全国老施協の活動に大きな影響を与えるのが、3年ごとに見直される介護報酬改定です。介護報酬は、特別養護老人ホーム(特養)をはじめとした老人福祉施設を経営する事業者の収益に直接関わるので大変重要です。これらの見直しを、介護現場にとって意味があるものにするために、どのようなエビデンスを構築にするかが大きな課題になっています。

全国老施協の事務局のお二人は、これからの全国老施協には、蓄積された膨大なデータを分析し、抽出されたデータを自分たちの「武器」として利用するための情報基盤が必要だと考えていました。

採用の経緯:全国老施協がデータを分析できる環境の構築

プロジェクト開始までの事情について、忽那氏は、次のように語ります。「2017年11月にIT基盤構築の検討を開始しました。4社のITベンダーに提案を依頼しましたが、3社からは、データ分析作業を『単発のプロジェクト』と考えた提案がありました。

唯一異なる提案を提出したのが株式会社AIT(以下、AIT)でした。AITは、全国老施協自身が使いこなすことが可能な分析ツール:IBM SPSSと、コンサルテーションを含めた分析支援サービスを提供することで、全国老施協が外部のリソースに頼らずに、自力でデータを分析できる環境を構築することを提案したのです。この提案こそ、全国老施協が期待していた『武器となる』データ分析環境(IT基盤)の構築だったのです。全国老施協が独自の力で分析を進めることができるように、運用面をしっかり考慮した分析支援サービスが提案されました。データ分析で豊富な実績があるAITがきめ細かくサポートすることで、効率的に深いデータ分析ができることが見えてきました。様々な提案を比較・検討した結果、AITによる提案が最善だと思われました。」

全国老施協の事業を推進する機関の1つである介護保険事業等経営委員会の特別養護老人ホーム部会における議論を経て、2018年4月に常任理事会で審議された結果、収集したデータを分析し活用することができる、『武器となるIT基盤』をいち早く整備することが議決され、データ分析プロジェクトは同年5月にスタートしました。

プロジェクトの開始:一足飛びにAIではなく、AIを活用するための基礎的な環境を構築

これまでは、データから『何が起こったか』という過去を理解しているに過ぎず、これからは、将来に対する予測と、『それがなぜ起こったか』という、より深いレベルの洞察を得て意思決定を行なうインサイト・ドリブン型組織が必要になると考えた全国老施協は、一足飛びにAIに到達することを計画せず、AIを活用するための基礎的な環境を構築することにしました。データ分析プロジェクトの目的は下記の3つでした。

  1. 多種多様なデータに統一的にアクセスし、データを分析できる環境の構築
  2. 官公庁が公開しているデータと全国老施協が蓄積しているデータを使用した信頼性の高い分析の実現
  3. 特別養護老人ホームが社会においてどのように貢献し影響を与えているかを分析、新たな知見を取得

忽那氏は、調査研究の一環として、全国の特養の状況を十数年前から追跡調査している膨大なデータベース(DB)に着目しました。さらに全国老施協では、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、ケアハウスなどの状況を5年ごとに定期的な調査を実施しており、これらのデータセットの活用も有益と考えました。
データ分析は、下記の3つの視点から、仮説に基づくデータセットを準備して行ないました。

  1. 特養と医療費の関係:
    特養のケアが充実している地域は医療費も低いと仮定し、特養が財政上も重要な社会資源であると言及できるのではないか
  2. 特養と幸福の関係:
    特養のケアが充実している地域は比較的所得が低い人でも入居でき、介護に関して地域の負担も減るので幸福度が高まると言及できるのではないか
  3. 特養と経済の関係:
    特養が雇用を創出しており、また特養が女性の社会進出の場を提供している。特養がきっかけとなって、その地域への転入が増えると言及できるのではないか

導入効果:新しい示唆の発見

今回のプロジェクトでは、上記の3つの視点から、特養の収支、基礎調査、政府が公開しているデータを利用してマクロ的な相関分析を行ない、次のような示唆を得ることができました。

重度要介護者も、しっかりデイケアで受け入れれば、65歳以上の1人当たりの医療費を削減できる

介護従事者の給料アップが、1人当たりの県民所得を向上させる

自治体財政の健全性は、多様な所得の人を受け入れ、人件費が手厚い特養が多い地域ほど安定している

消費支出は、医行為提供者が少なく、人件費が手厚い特養が多い地域ほど高くなる

合計特殊出生率は、低所得の高齢者を受け入れている特養が多い地域ほど高くなる

趣味・娯楽時間は、医行為提供者割合が少なく人件費も手厚く拠出している特養が多い地域ほど長くなる

自殺者数は、入院期間が短く収支差率が高い特養が多い地域ほど少なくなる

導入効果1:データ分析の所要時間の短縮と精緻化

これまでのExcelによるデータ分析は、1つの調査に対する処理量も増える一方で、別々の調査の情報の統合やそれらの分析が困難な状態になっていましたが、IBM SPSSを使ったデータ分析は、大量のデータでも高速処理が可能で、施策提言に必要な判断材料提供の迅速化が実現しました。さらに、現在実施されている施策に対しても、新しい変数・算式、閾値を提供することで、より精緻な分析が可能になりました。

導入効果2:人が認識しにくい相関関係の発見

人が認識しにくい長期間、異種間、あるいは条件が変化するようなデータ特性に対しても、データを深掘りして分析し、その変化を検出できる分析手法を確立しました。

導入効果3:暗黙知から形式知への進化

これまでは、全国老施協関係者や職員が業務を通して得ていた経験や勘という暗黙知から、分析のノウハウを共有し、再利用が可能な分析モデルを確立することができる、形式知へと進化させることができました。これによって、政策提言の際の『データの裏付け』の提供が可能になり、エビデンスに基づく政策決定(Evidence Based Policy Making:EBPM)の実現へと向かう道筋が見えてきました。

多種多様なデータを効率的に分析するための苦労もありました。データ分析を担当した佐々木 正太郎氏は次のように語ります。「蓄積したデータを分析に最適な形に加工して、きれいなデータを作ってからIBM SPSSに取り込むことで、データ分析作業の効率化と高速化を実現しました。このデータの加工ステップの作業が最も大変でしたが、データを正しく加工することによって、膨大なデータでも驚くほどのスピードで分析作業が可能になりました。これはAITの分析支援サービスがあったからこそ実現できました。そして、今では徐々に自力でデータの加工ができるようになっています。」

今後の展望:高齢者福祉のプロフェッショナルとして高齢者に寄り添う全国老施協の挑戦

「今回のプロジェクトでは、全国老施協が外部のリソースに頼ることなくデータを分析できる環境と体制を整備するという大きな目標を達成することができました。その成功の鍵はAITの迅速で的確な支援だったと考えています。今後は、マクロ・ミクロ分析の両面から、全国老施協が長年にわたり蓄積したデータと公的統計などをきめ細かく分析し、介護現場にとって真に意味がある政策決定の実現を強力に支援していきます。また利用者のタイプ別に効果があったケアを数値化して分析するなど、これまでに無い新しい視点でのアプローチも行っていけるのではないかと考えています。」
忽那 氏は、力強く締め括りました。

既に2035年を見据えたビジョンを発表し、「最期の一瞬まで、自分らしく生きることができる社会」を目指す全国老施協。今後、激変し続ける社会の中で、高齢者福祉のプロフェッショナルとして高齢者に寄り添い、一人ひとりが最期まで価値観を尊重され、生活できる社会の実現に向けた全国老施協の役割はますます重要になっています。

※2018年12月取材

実績法人プロフィール

公益社団法人 全国老人福祉施設協議会様

設立 1962年(法人認可:2009年4月1日)
事業概要 高齢者の福祉の増進に関する調査研究、研修等の実施、普及啓発活動、相談支援。その他出版事業。

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