電子カルテシステムの24×365の安定運用を実現する
IT基盤としてIBM Power Systems AIXを採用
MQ+DB2+フラッシュストレージにより、超短時間の停止でシステムの移行を実現
サーバ集約と仮想化により、省スペース、省電力、システム運用負荷の軽減を実現
最終更新日:2025年11月20日
ある医療関係のお客様では、基幹業務である電子カルテシステムの更新を行う際に、IBM Power Systemsを採用し、DB2とMQを使ったQレプリケーション機能、フラッシュストレージの機能を活用することによって、わずかなシステム停止のみで既存システムの移行に成功しました。
さらに、統合的なバックアップ環境を構築したことと、仮想化によるサーバの削減により、限られた人数のシステム担当者が抱えていたシステム運用負荷を大幅に軽減しました。
本プロジェクトでは、システム移行、サーバ統合に留まらず、シンクライアントを採用した新しい端末の導入によって、カルテデータや個人情報の漏えいを防ぐ、端末セキュリティの向上という大きな成果をあげました。
導入前の課題
・基幹業務の電子カルテシステム更新に伴うシステム停止時間の最少化。
・拡張の余地が無いサーバルーム内のサーバ台数の削減とシステム運用負荷の軽減。
・個人情報保護などの観点からの端末セキュリティの強化。
ソリューション
・堅牢性・安定性の高いIBM Power SystemsとAIXを組み合わせた環境上に、電子カルテシステムを構築し、24×365の安定運用を実現。
・DB2とフラッシュストレージならでは機能を駆使し、迅速にデータのバックアップと複製を行う仕組みを構築。システムの停止と移行に要する時間を大幅に短縮。
・サーバ台数の多い部門系サーバの仮想化によるサーバ集約の実現。
・端末側にデータを持たないシンクライアントシステムによるセキュリティの強化。
導入効果
・数秒程度のシステム停止で、電子カルテシステムの移行を実施し、診療への影響を最少化。
・サーバラックの数を10から6へ削減し、省スペースと省電力を実現。さらに、統合的なバックアップの仕組みにより、システムの運用負荷を軽減。
・端末側に個人情報を保管しない運用による、セキュリティの大幅強化。
1. 課題
「医療行為への影響を最小限に留める」ためには
短時間のシステム停止で、基幹業務である電子カルテシステムや、
検査システムなどの病院部門系システムを新システムへ
移行することが必要だった
プロジェクトがスタートした2015年には、既存の電子カルテシステムのITインフラの更新が必須でした。しかし、電子カルテシステムは、診療のために24時間止めることが許されない基幹業務システムでした。
そのために、電子カルテシステムのアプリケーションを導入するアプリベンダーと、ITインフラ構築を担当するAITには、綿密な移行計画の立案と対応が求められました。しかも、検査システム、放射線システム、看護勤務システムなどの部門系サーバの統合も並行して実施されます。部門系サーバは、部門ごとにシステムベンダが異なり、OS、バックアップツール、バックアップの運用も異なるという、サーバ統合にとって大きな難関が待ち構えていました。
2. 時間のかかる『緻密な調査』の実施
AITが最初に提案したのは、部門系サーバに関する『緻密な調査』の実施でした。AITは、部門系サーバで稼働中のアプリケーションを提供していたすべてのシステムベンダのヒヤリングに着手しました。OS、対応ブラウザ、内蔵ディスクの必要サイズ、外部ディスクの必要性、クラスタ対応、バックアップ方式、システム監視など、作成したヒヤリングシートの内容は多岐に渡っていました。各社からヒヤリングした情報を、ある程度標準化できるレベルまで絞り込んだうえで、システムベンダと個別に折衝するという地味で時間がかかる作業でした。
その結果、堅牢性と安定性が要求される電子カルテシステムにはIBM Power Systems+AIX、約100台ある部門系のサーバにはIAサーバの仮想基盤を採用し、ハードウェア監視はハードウェアの機能を利用したメール通知と、アプリケーションのエラーメッセージ監視は、既存の手組みシステムの継続使用という組み合わせが採用されました。
3. 『統合バックアップ方式』の確立
AITが次に提案したのは、『統合バックアップ方式』でした。上記の『緻密な調査』の結果判明したことは、予想できなかったほどの、データのバックアップ方式のバラつきでした。システムベンダによっては、専用のバックアップツールを使用したり、単にデータを外部にエクスポートしたりというように、運用には大きな違いがありました。
お客様のシステム運用担当者は人数が非常に限られています。システムの移行とその後の運用を考えると、システムの長時間の停止が必要な人手のかかるバックアップ方式は使えません。また、データのエクスポート自体に時間のかかるバックアップ方式も。診療に影響が出るので採用できません。
データ容量の大きいものは、ディスク装置のフラッシュコピー機能を利用して瞬時にバックアップをコピーすることとし、データ容量の小さいものは、バックアップ一次領域へ保管した後、まとめてテープへバックアップすることとしました。
バックアップツールには、IBM Spectrum Protect (旧称: Tivoli Storage Manager)サーバによる『統合バックアップ方式』が採用され、様々なバックアップツールが乱立していた部門系サーバのバックアップの一元管理・運用が可能になりました。
4. 電子カルテの『参照用サーバ』の設置
電子カルテシステムは、医療機関にとって診療情報の収集と利活用を支える基幹業務システムです。電子化された過去のカルテデータを参照できることは診療行為に必要不可欠です。しかも、そのデータは最新のものでなければなりません。AITが提案したのは、DB2+MQによるリアルタイムデータを反映した、電子カルテの参照専用サーバの設置です。電子カルテの過去の全データが蓄積され、適切な診療行為を行うために24時間貢献しています。このように、最新の電子カルテデータを常に参照できる環境を構築しながら、電子カルテシステム自体を円滑に移行することが可能な環境を構築することになりました。
5. 電子カルテシステムのデータ移行時間の劇的な短縮
電子カルテシステムの移行に伴う大きな課題は、データ移行の際に必要なシステム停止時間を極力短縮することでした。診療に与える影響を極小化することが最重要課題でした。DB2の機能を使ってデータをエクスポートすることも検討しましたが、DB2+MQを用いたQレプリケーション機能を利用したデータ移行の方がシステム切替え時のデータ移行時間を劇的に短縮できることがわかりました。そのうえ、フラッシュコピー機能を使用し、本番とほぼ同じ環境を準備することで、データの移行計画からアプリ検証まで、ほぼ同じデータ量を使ったパフォーマンステストなど、事前に検証することが可能になりました。
データの移行にあたり、最初はQレプリケーションのフルリフレッシュで全量のレプリカを取りその後は差分のみ反映します。Qレプリケーション機能を用いることにより、システム切替え当日のデータ移行は、直前のデータのみの反映で済むため、わずかな停止時間でデータ移行を完了することができます。しかも、Qレプリケーションは、システムのパフォーマンスに影響を与えることがありません。
電子カルテデータの新環境への移行作業は、アプリケーションの停止作業、移行後の確認作業を含めて、新しいIT基盤への移行に3時間かけました。このように、わずかなシステム停止の間に安全に移行作業を実施することができました。
6. 『サーバ統合と仮想化環境の構築』による省スペース化、省電力化
サーバルーム内には10本のサーバラックがあり、ラック増設の余地はほとんどありませんでした。部門系のサーバの業務を変更することなく、仮想化環境の中で6本のラックに集約することができました。省スペース、省電力が実現しただけでなく、システムの標準化や統合バックアップなどによって、システム運用が楽になったことは言うまでもありません。
7. 『シンクライアント化』による端末セキュリティの強化
医療機関においては、電子カルテデータなどの個人情報を参照するために、数多くの端末が利用されています。個人情報を保護するためのセキュリティ強化と、個人情報が格納された端末の盗難といったリスクへの対応が求められていました。カルテデータ、個人情報の漏えいを防ぐためのセキュリティ強化対策は、端末のシンクライアント化でした。今回の端末の置き換えの際に新規に導入された端末もありましたが、大半は既存端末のリプレイスです。数が多いうえに、24時間業務に使用されている端末の置き換えは大変な作業になりました。
お客様のシステム担当者は人数が限られているうえに、サーバの管理と端末のヘルプデスクも兼任していました。AITは、お客様の施設内に、端末の移行サービスの窓口を設置し、約2か月かけて既存端末のデータをクローニングして、シンクライアント化する作業を順次実施しました。例えば、あるナースステーションでは、10台の端末を使用中であれば、8台で乗り切っていただき、2台ずつ順次切り替えるというように、台数や交換作業の時間帯を、現場で調整しながら切り替えを実施しました。
8. システムの移行が無事に終了
2016年の初めには、電子カルテシステムの移行が完了し、部門サーバの仮想化とサーバ集約、端末のシンクライアント化が終了して、サービスインすることができました。お客様からは、「多少のトラブルはありましたが、システムの移行時には大きなストレスを感じませんでした。職員の中には、知らない間にシステムが変わっていたと感じた人もいます。」という声をいただきました。AITにとって何よりの誉め言葉でした。
IBM製品の先進的な機能をフルに引き出して、AITならではのきめ細かなサポートを合わせて提供したことが、移行時に大きなストレスを感じないプロジェクトの成功をもたらしたと考えています。今後も、AITは、お客様の施設で月に一度開催される定例会などを通し、お客様の声に耳を傾け、先進的な機能を活用した高品質のシステムの提供と、安全・安心の運用の実現をご支援します。
※掲載内容は、取材当時のものです。