ハードウェア導入事例

イプリザ&日本IBM特別インタビュー

IBMテクノロジーで研究機関の情報基盤に未来を見据えた変革を

最終更新日:2025年11月19日

大容量ストレージ、データ長期保存システムの構築を得意とする株式会社イプリザ(以下、イプリザ)。同社は日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)とAITとの協業を通じて、研究機関や大手企業の情報基盤の変革に取り組んでいます。果たして、イプリザとIBMは、機関の情報基盤を巡る課題をどうとらえ、それをどう変えようとしているのでしょうか。また、変革のカギを握るテクノロジーとは何なのでしょうか。

AIT 常務執行役員の湊 幸次郎が、イブリザ社長の伊藤 義彦氏と日本IBM ストレージ事業部Ecosystem担当部長の野本 智志氏に話を伺います。

1. 情報資産を巡る日本の企業・組織の課題

伊藤さん、野本さん、本日はお時間をいただきありがとうございます。今回は、当社もお手伝いさせていただいている、イプリザとIBMによる日本の研究機関のお客様の情報基盤の取り組みを中心に、さまざまな視点でお話を伺いたいと思います。

早速、本題に入りたいのですが、その前にイプリザについて伊藤さんからご紹介いただけますでしょうか。会社の設立が2023年と最近ですので、御社をまだご存じではない方もおられると思いますので。

伊藤氏:当社は大規模ストレージやデータの長期保存に関するコンサルティングをはじめ、大規模研究開発システムの設計・構築・運用サービスや階層型ストレージ管理システム「High Performance Storage System(HPSS)」の設計・構築・運用サービスを事業として手がけています。

私自身は、IBMで科学技術計算系の事業に長く携わり、それを通じてIBMのストレージソリューションを大手の研究機関に向けて数多く提供してきました。それによって培ってきた知見、技術、そしてビジネス上のつながりを生かしながら、データ管理を巡る企業・組織の課題の解決に一層貢献したいと考え、当社を立ち上げた次第です。

伊藤さんの言う「データ管理を巡る課題」とは、具体的に何を指していますか。

伊藤氏:課題はさまざまですが、特に大きな課題といえるのはデータを維持・管理するコストです。

データは、企業・組織にとって貴重な財産であり、日々のビジネス活動の中でほとんど使われなくなったデータであっても、将来的な再利用やコンプライアンスを考慮しながら、しっかりと維持・管理していく必要があります。

ただ、データは日々生成されていきますので、維持・管理すべきデータはどんどん増えていきます。その中で、大容量データの維持・管理コストをいかに適正化していくか、また、そのための情報基盤をどう築いていくかが、企業・組織にとってきわめて重要な課題になっているのです。

2. 課題解決の一手はテープメディアの活用にあり

データ管理というと一般的にはストレージ、昨今ではクラウドストレージの活用が注目されていますが、大容量データの管理コストを適正化する術(すべ)として、イプリザは、IBMの磁気テープ装置「TS4500テープ・ライブラリー」などを使ったソリューションを提案・提供しています。もちろんCPU、ストレージと連動したソリューションですが、磁気テープ装置の活用が、データ管理コストの適正化にどう寄与するかについてご紹介ください。

伊藤氏:磁気テープ装置は「レガシーな仕組み」というイメージを持つ人が多くいます。ですが実際には、大容量データの管理コストを適正化するうえできわめて有用なシステムです。

まず、磁気テープ装置は「ドライブ」と「記憶媒体(以下、メディア)」が分かれていて、ドライブ(テープドライブ)には保守料金がかかりますが、テープメディアは多くの場合、保守料金がかかりません。言い換えれば、磁気テープ装置では、データを保管するための保守料がほぼ“ゼロ”なわけです。しかも、テープメディアにはデータ保管のために電力を消費しないという利点もあります。

もちろん、磁気テープ装置は、頻繁にアクセスされるアクティブなデータを扱ううえでは不向きな仕組みで、そうしたデータを扱う場合は、SSD(Solid State Drive)やHDDなどのメディアを用いるべきです。ただし、磁気テープ装置を使えば、SSDやHDDを使用するよりもはるかに低コストで、ほとんどアクセスされない非アクティブなデータを大量に、そして長期にわたって保持することができ、しかも環境に優しい情報基盤が実現できるわけです。

野本氏:そうした磁気テープ装置の優位性から、科学技術計算やハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)といったサイエンスの領域ではIBMの磁気テープ装置が広く使われ続けています。

例えば、気象データをはじめ、加速器、衛星、ゲノムシーケンサーといった装置が生成するデータ、さらにはスーパーコンピューターがシミュレーションの結果として生み出すデータはきわめて大量です。それを長期保存する手段としてテープメディアが有効に活用されているわけです。加えて最近では、医療機関、大手製造、行政・自治体、サービスプロバイダーなど、科学技術計算以外の領域でも、テープメディアを見直し、それに回帰する動きが活発化しています。

回帰の理由は、コストですか。

野本氏:コストと安全性です。大量のデータ資産を保護するうえで何が最も安心・安全で低コストかを考えていくと、必ずテープメディアに行きつきます。実際、テープメディアは一度データを書き込むと、ネットワークから切り離されます。ゆえにサイバー攻撃を受けるリスクはなく、安全性が高いレベルで担保されるのです。

3. データの保管場所としてのクラウドの限界

近年においては企業・組織のシステムのクラウドシフトが進行し、クラウド上にデータを保存する流れも加速しています。クラウドを使えば、ストレージの設備を社内、ないしは組織内に設置して運用管理する必要はなくなり、結果として社内・組織内の運用の消費電力も下げられます。そうしたクラウドのソリューションに比べた、磁気テープ装置のアドバンテージはどこにあるのでしょうか。

伊藤氏:クラウドストレージは、必要に応じてリソースをダイナミックに拡縮できるという点でとても優れたソリューションです。ただし、いったんクラウドにデータを保存すると、そのデータをのちに使うか使わないにかかわらず、スペース確保の料金が恒久的に課金され続けます。そして、保存するデータが増えていけばいくほど、そのコストが膨らんでいきます。しかも、クラウド上のストレージに大量のデータを保存してしまうと、新たな場所にそれを移動させるのも容易ではなくなります。

このように考えていくと、クラウドは、非アクティブな大量データを長期にわたって保管する場所としては適切ではなく、オンプレミスの磁気テープ装置、ないしはテープメディアを使ったほうが良いという結論に至るはずです。

4. 情報基盤変革の鍵を握るテクノロジー

野本氏:先に伊藤さんが指摘したとおり、テープメディアは非アクティブなデータを大量に長期保存するうえで間違いなくベストのソリューションです。ただ、それだけで企業・組織の情報基盤が完結するわけではありません。

ゆえに問題は、クラウドやテープメディア、SSD、HDDなどのメディアを使いながら、データの運用管理の効率化とコストの適正化をどのように図っていくかです。そのための情報基盤づくりに欠かせないシステムの1つが、先ほど伊藤さんが触れられたHPSSです。

この技術の扱いに精通していることは、伊藤さん、そしてイプリザの強みといえ、当社がストレージ事業で同社と協業している理由の1つでもあります。

伊藤さんと同様にAITでも長くIBMのストレージ製品を扱い、IBM製品を取り巻く技術についても豊富な知見と活用のノウハウを蓄積してきました。そのことが、イプリザとIBMの取り組みに、当社がかかわることになった大きな理由でもあります。

そんな当社から見て、日本の中でHPSSに最も精通しているのが伊藤さんであると考えています。その伊藤さんにHPSSについて簡単にご紹介いただきたいのですが。

伊藤氏:HPSSは、米国エネルギー省の複数の研究所「Department of Energy(DoE 研究所)」とIBM、ならびに米国エネルギー省との協業によって1992年にソフトウェア化された階層型ストレージ管理システムです。

このシステムを使うことで、高速で高価なメディアと、テープなどの低速・安価なメディアとの間でデータを自動的に移動させることが可能になります。言い換えれば、データの保存先をそのアクセス頻度に応じて変更するという運用を自動化し、情報基盤全体の構造とコストを最適化する仕組みがHPSSであるわけです。

HPSSの商用ライセンスはIBMが独占的に提供しているのですか。

野本氏:HPSSには政府機関が出資しているので、IBMのような民間企業がライセンスを独占的に行うことはできません。また、HPSSは基本的にベンダーフリーのソフトウェアでIBM製品でしか動かないわけでもありません。

ただし、IBMは現在も、HPSSの研究開発に携わっていますし、企業・組織がHPSSをライセンシングする際には米国IBMと役務契約を結び、HPSSを導入したユーザーに間違いなくメリットをもたらすことを希求しており、この考え方のもとで、イプリザやAITにHPSSをサポートしてもらっているわけです。HPSSの役務をこなせるスキルを持ったベンダーは少なく、イプリザとAITはその数少ないベンダーであるということです。

5. HPSSで積み上がる実績

我々3社による協業の成果として、HPSSや磁気テープ装置の導入実績が積み上げられつつあります。伊藤さんのほうから、その実績についてお話しいただけますでしょうか。

伊藤氏:当社は設立間もないベンチャーですが、2025年4月までの実績として、おかげさまで2つの大手研究機関の情報基盤を、HPSSやIBMのストレージ製品を使って変革するといった成果を上げています。

このうちの1つの研究機関には、数百ペタバイト(PB)規模の実験データのストレージ環境を、IBM製品とHPSSを使った階層型ストレージシステムに変更しました。結果として、膨大な実験データを確実に蓄積し、かつ、必要なデータへの高速なアクセスを実現しながら、システム費用や電気代、設置スペースを大きく低減させることに成功しています。この研究機関の実験では、加速器という電磁石の塊のような装置が多用され、その装置は莫大な電力を消費します。また、実験用のコンピューターシステムの電力消費量もかなりの大きさです。その中で情報基盤の電力消費が大幅に削減された効果はとても大きいと見ています。

6. 3社協業で目指す世界

イプリザとIBM、当社との協業はすでに実績を上げていますが、今後、この協業に期待することを聞かせてください。まずは伊藤さんからお願いできますか。

伊藤氏:当社としては今後も、磁気テープ装置を中心としたストレージソリューションを、研究機関をメインにしながら提供していく考えです。実際、情報基盤を変革したいと望んでいる研究機関は相当数あり、引き合いも多くいただいています。ですので、そうしたニーズにしっかりとおこたえしていくことを当面の目標としています。その目標達成を後押ししてくれるパートナーとして、IBM製品の供給や扱いに精通し、技術的な知見・ノウハウを持った人材を数多く擁しているAITには大いに期待しています。今後とも、ぜひご一緒させていただき、ともに情報基盤の変革を推し進めていただきたいと願っています。また、IBMにはこれからも、革新的で優れたストレージ技術を提供してくれることを望んでいます。

野本氏:IBMは、大手企業に対するストレージソリューションの提供では高い実績を有していますが、サイエンス領域のストレージ市場については開拓し切れていませんでした。イプリザとAITとの協業によって、そうした事業上の課題を解決したいと考えています。また3社の協業を通じて、サイエンス領域以外の市場、つまりは、金融機関や大手製造、行政機関、自治体、さらにはAITが得意とする医療機関など、研究機関以外の業界においても、HPSSやIBMのストレージ技術を使った優れたソリューションを積極的に提案・提供し、その普及を図っていきたいと望んでいます。さらに、そうした目的を果たすのに有効はテクノロジーをこれからも提供し続けたいと考えています。

伊藤氏:テープメディアの市場開拓にきわめて有効に機能しそうなIBMの新たなテクノロジーとして、私は「IBM Storage DeepArchive」に注目しています。

この技術に注目される理由は何でしょうか。

伊藤氏:野本さんはよくご存じでしょうが、IBM Storage Deep Archive は、Amazon Web Services(AWS)のS3インターフェースを通じて、クラウド上のデータをオンプレミスにあるIBM の磁気テープ装置に直接アーカイビングする仕組みです。この仕組みがあれば、アクティブなデータの保存先としてクラウドを使いながら、非アクティブな大容量データの長期保存用としてテープメディアを使えるようになります。

現状でもIBM Storage Deep Archiveと同様の仕組みは作れますが、それには相当の工数がかかります。IBM Storage Deep Archive によって、その手間が不要になり、クラウドからテープメディアへのデータのアーカイビングがしっかりと、そして簡単に行えるようになるならば、それは、クラウドシフトの戦略を推進する中で、大容量データの長期保存先をどこにするかで悩む企業・組織にとって、とても魅力的なソリューションとなりえます。

野本氏:伊藤さんのおっしゃるとおりですね。例えば、日本の行政機関や自治体では「ガバメントクラウド」の政策によってシステムのクラウドへの移行を急ピッチで進めていますが、結果として、大容量データを長期保存するコストが上昇してしまうリスクが高まっています。そうした課題を解決するうえで、IBM Storage Deep Archiveのソリューションはかなり有効なはずです。

加えていえば、医療機関では、患者のカルテを診療の完結から5年間は保持しなければならず、大規模な病院になると、長期保存の対象となるデータは膨大な量になります。その一方で、医療機関でもクラウドシフトが進行しています。ですので、IBM Storage Deep Archiveのソリューションが魅力的なものとなる可能性は大きいといえるでしょう。AITとしても、IBM Storage Deep Archiveには注目していきたいと考えます。

野本氏:なるほど、大手の医療機関にとっても、IBM Storage Deep Archiveは魅力的なソリューションとなりえますね。

ええ、そうだと考えます。IBM Storage Deep Archiveには、期待したいですね。では、本インタビューの締めくくりとして、イプリザの伊藤さん、IBMの野本さんに、このたびの3社協業で最終的に目指すところについてお話いただきたいと考えます。

伊藤氏:近年におけるデジタル化の潮流やAIの普及などから、日本の企業・組織が管理すべきデータ量は爆発的に増えています。ただ、それらのデータを企業・組織の貴重な財産としてしっかりと保管して管理・活用し、その価値を高めようとする意識は、米国などに比べてまだまだ低いと感じています。イプリザの事業や3社の協業を、その辺りの意識の改革やデータ保存の大切さを深く理解する人材の育成につなげていくことを目指しています。

野本氏:当社としても、ぜひ、そのお手伝いをさせていただきたいと思います。

それは当社も同じ想いです。伊藤さん、野本さん、本日は貴重なお話しをお聞かせいただき、本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

※掲載内容は、取材当時のものです。

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