日本初、大規模病院向け総合医療情報システム構築
‐ハイブリッドクラウド導入事例:福井大学医学部附属病院プロジェクト概要-
最終更新日:2025年11月19日
1. プロジェクト概要
ハイブリッドクラウド総合医療情報システムの導入プロジェクトは、日本国内で初めての大規模病院(大学病院)における取り組みになりました。大規模病院での電子カルテや部門業務などの総合医療情報システムのサーバ群を、クラウド環境下(パブリッククラウド)と院内(オンプレミス)に配置する、「ハイブリッドクラウド」として運用するシステムになります。
パブリッククラウド環境には、サーバを「IBM Power Systems Virtual Server」と「IBM Cloud Bare Metal Servers」、ストレージを「IBM Cloud Object Storage」が採用されました。ハイブリッドクラウド基盤の構築を約5カ月で完成させ、2020年10月よりテスト環境で稼働。アプリケーションの改修も含め、2021年4月に成功裏にサービスインしました。
2. プロジェクト経緯
福井大学病院では、2012年以降医療情報部のリードのもと、ICTを活用したクラウド化のメリットについて研究し、部分的なクラウド導入を実施してきました。また、新たなICT活用法として、5G/IPv6/スマートデバイスによるバイタルデータ分析、屋内GPSの活用の実証実験、ウエアラブル・コンピュータ活用、sXGPの実証実験などを行い完全クラウド化への知見も取得されました。2016年末には、救急部で使用している「クラウド型救急医療連携システム」がモバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)から総務大臣賞、ユーザー部門モバイルパブリック賞、グランプリの同時3冠を受賞しました。このシステムは、救急隊が患者のもとに到着後、現場から直接病院に心電図を送信することができ、病院では患者が到着する前に診断が可能となり、受け入れ態勢の時間短縮が図られるという画期的なシステムでした。
2018年から総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)として、IoTと位置情報の活用による院内での感染対策管理のシステムの研究が採用されており、感染対策としての手指衛生状況の把握やアシストとしての今後の感染症拡大への対応に向けた重要なシステムの構築がなされた。新型コロナ感染症の拡大で感染対策の重要性が認識されたことから、今後はIBMのクラウドでのAI等活用も予定されている。
2019年に発表した病院の理念「最新・最適な医療を安心と信頼の下で」のもと、さらなるデジタル化への推進を図り、2020年6月には、これまでの実装や実証実験を踏まえハイブリッドクラウド総合医療情報システムを構築することが決定されました。日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)とともに株式会社AIT(以下、AIT)では、福井大学病院の導入支援を共同で実施することになりました。
3. プロジェクトの課題と解決策
構築プロジェクト推進に際して、福井大学病院内に、医療情報を外部のクラウド環境に保存することによる漏洩リスクや、通信回線を介して医療情報システムを利用することで応答が遅延し診療行為に影響を与えることに対する懸念の声がありました。しかし、AITの長年にわたる「IBM Cloud」や「セキュリティ」の導入実績、エンドユーザー用にカスタマイズした運用監視サービスなどが評価され、福井大学病院様の懸念を払拭することができました。
現行システムをIBM Cloud 上で実現する際の、サーバ配置・ストレージの選択・バックアップ方法の選定などに参考となる前例はありませんでしたが、IBMパートナーとして長年培ってきたPower、Storage、Cloud、Security、AIなどの経験と技術力が一つ一つの最適解を得ることができ、ハイブリッド基盤構築に役立つことができました。
3-1. 導入したソリューション
今回導入したソリューションは、アプリケーションの提供をIBM、インフラストラクチャー(ハードウェア/ソフトウェア、インストールおよびクラウドインフラストラクチャー構築)およびクラウドサービス(IBMCloudおよびクラウド・モニタリングサービス)をAITが担当しました。
このソリューションには、次のような製品が含まれています。
- ハードウェア:Power Systems Virtual Server & Storage
- ソフトウェア:Cloud Pak for Data, Db2, Cloud Pak for Application, WebSphere Application Server
- クラウド:IBM Cloud
- モニタリング:AITクラウド運用監視サービス
4. 導入効果
完全なクラウド化により、運用コストは約2割削減され、医師・看護師の生産性が2割向上しました。また、研究分野への取り組みや教育への活用効率が大幅に向上する結果となりました。
定量・副次効果は以下になります
- 電気・空調の3割削減
- ハードウェア/保守など冗長性向上によるコストが2割削減
- 医師・看護師のベッドサイドでの仕事の効率改善
- 環境の改善により、看護師の退職率低下
- システム全体の仮想化で効率改善
- 通信料が低減され体感速度向上
5. お客様の成功への貢献
大学病院の経営の効率化、運営のスリム化は避けられない命題です。医療の高度化に対応するために、ハイブリッドクラウドによる総合的な医療情報システムの導入は今後スマートモバイルやオープンなテクノロジー採用においても対応可能で、最終的には運用保守含めた十分な投資効果が期待されています。
福井大学医学部附属病院(以下、福井大学病院)
外来患者数1500人、診療科32、病床数600の福井県唯一の特定機能病院で、医師・看護師の養成機関としても名門の大学病院です。手術支援ロボットや、手術台に血管X線装置を組み合わせたハイブリッド手術室、最先端の手術器具滅菌管理システムを導入するなど、県内唯一の特定機能病院として、高度医療の提供、新規医療技術の開発・評価を行っています。
※掲載内容は、取材当時のものです。