アナリティクス導入事例

IBM SPSS、クラウド環境(AWS)導入事例:株式会社荏原製作所様

予知保全技術の確立を目的にしたデータ分析にIBM SPSSを採用
クラウド環境上に分析基盤を構築し、柔軟で効率的な運用を実現

最終更新日:2025年11月19日

2012年に創業100周年を迎えた株式会社 荏原製作所(以下、荏原製作所)は、世界トップクラスの流体技術をベースにした優れた技術とサービスで、高度化し多様化する顧客の要求に的確に応えてきました。荏原製作所は、ポンプで培った技術を発展させ、コンプレッサ、タービンなどを加えた風水力事業、最先端技術が求められる半導体製造装置製造などの精密・電子事業、廃棄物処理、リサイクルなどの関連施設の建設・運営を行う環境プラント事業の3事業を柱に、グローバル規模でのビジネスを展開しています。また、100年以上にわたり培ってきた技術を活用した新規事業にも積極的に進出しています。

各事業領域において世界トップクラスの産業機械メーカーを目指す同社は、従来のメーカーの枠組みを超えた、製品やプラントのライフサイクル全体を対象とした「サービス業化」に取り組んでいます。世界各地の製造拠点でニーズに合った製品を提供し、納入後もお客様が安心して使用できるよう、きめ細かい保守サービスの提供に注力しています。

同社では製品の稼動データを蓄積・分析し、データから新たな価値を創造するため、データ分析ツールとしてIBM SPSS(以下、SPSS)を採用。さらに、クラウド上に分析環境を構築し、柔軟・正確・迅速なデータ分析を実現しました。さらに、ビジネスユーザーもデータ分析が可能な仕組みを確立するなど、既存のデータ分析環境を刷新しました。

課題
・製品納入後の稼働データの有効活用
・ビジネスユーザーでもデータ分析を行える仕組みの実現
・負担のかからないシステム構築と運用体制の確立

ソリューション
・使い易いデータ分析機能をクラウド上で提供
 柔軟で高品質なデータ分析を実現
・分析の専門家ではない事業部の担当者でもデータ分析が可能なシステムの実現

導入効果
・いつでも、どこでも、データ分析が可能な環境を構築
・データ分析作業の効率化と、質の高いデータ分析を実現
・新たな価値を創造するデータ分析環境を確立

1. 導入前の課題
 既存の蓄積データを最大限に活かして営業活動を支援する

産業用の機械を主軸に、人々の豊かな生活を支える荏原製作所。優れた製品を開発するために、流体解析などの数値解析や、材料の物理・化学的分析などに早くから取り組んでいます。優れた製品をお客様に販売するところでビジネスが完結するのではなく、販売後のサービス&サポートを含めたライフサイクル全体が、お客様とメーカーの双方にとって、より一層重要になってきました。“技術と創意工夫でさらなる成長に挑戦する”荏原製作所は、お客様に新たな価値を提供するために、膨大なデータの活用に向けたデータ分析基盤の構築に着手しました。

同社における製品の稼動データの活用について、データ科学研究課課長の神子島氏は、「ポンプや送風機などの回転機械の稼働状況に関係するデータが分析の中心となります。これらのデータは、データ量が膨大である一方、故障が極めて少ないことが特徴です。そこで、故障データがない、または、少ない状況下で、どのようなモデリングが可能かを探りながら、ビジネスに有効な知見を抽出するアプローチが求められます。」と話します。

回転機械に付きものの振動などのデータを複合的に分析することによって、機械装置の異常を検知し、故障や寿命を予測するためにビッグデータを利用するという構想です。サービス&サポート部門は、メンテナンスが必要な時期や、どのような内容のメンテナンスが必要になるかを事前に把握できれば、必要な部品を事前に手配するなど、問題が起こる前にプロアクティブに対応することが可能になります。また、お客様にとっても、機械装置の停止時間を最短で済ませられるなどの大きなメリットがあります。

こうして2018年にスタートしたのがデータ科学研究課でした。データサイエンティストとして2018年に入社した神子島氏は、できたばかりのデータ科学研究課に配属されましたが、すぐに課題に直面しました。分析に必要なデータが蓄積されていない。ノートPCの中に分析用ソフトウェアが導入されているだけで、ビッグデータ分析に必要なハードウェア、ソフトウェアが不足している。データサイエンティストなど分析の専門家がいないという、リソース不足の状態でした。

そのため、ビッグデータのままでは分析ができず、スモールデータに加工(リサンプリングや代表値の抽出など)して分析していたのです。これでは、機器の状態(事実)を正しく把握しているとは言えません。経年劣化していく部品は、スモールデータに加工しても状態の推定が可能です。一方、ポンプのボールベアリングやメカニカルシールなどに発生する瞬間的な異常は、サンプリングの周波数が高くないと十分な分析ができません。従来は、瞬間的な異常の分析が困難なため、経年劣化に集中して分析していたのです。

ビッグデータをそのままの形で分析できれば、もっと多くのことが分かることは明らかでした。しかし、いつ、どれだけの量のデータが必要になるのかを事前に正確に予測するのは困難です。オンプレミスのシステムでは、データ量・作業量の最大値に合わせた過大なシステムを構築してしまうリスクがあり、データ量・作業量に合わせたシステムリソースを使えるクラウドサービスが良いと考えていました。

分析に必要なインフラに関しては、IT部門との協議が続きました。IT部門でも社内のオンプレミスのシステムを維持管理することに限界を感じていたのです。セキュリティやネットワーク負荷などを総合的に検討し、クラウド化を選択しました。既に導入されていた分析用ソフトウェアは、IBM SPSS(以下、SPSS)でした。クライアントソフトでは能力不足であったため、サーバーソフトに置き換えることを考えました。

そこで、SPSSサーバーの稼動実績があり、データ分析のサービスが豊富であるという条件を満たすクラウドサービスを探し始めたところ、AWSが希望する条件にぴったり当てはまりました。2018年の9月までにシステム構想を練り、社内調整後の12月に基本計画を立案し、2019年8月にシステムを構築、9月から試験運用、10月にデータ分析システムは本稼働しました。

2. 導入効果
 ビッグデータをストレスなく分析
 運用面でも効率化、コスト削減を実現

データ分析基盤のSPSSサーバーをAWSのクラウド環境上に構築した効果は2つの面で明確に現れました。

1つは、ビッグデータをスモールデータに加工する必要がなくなり、本当に分析したいことがストレス無く実行できるようになりました。またAmazon Redshiftを活用することにより、高速なデータ処理を実現することができました。もう1つは運用面で、Amazon WorkSpaces(マネージド型でセキュアなサービスとしてのデスクトップソリューション)を必要なスペックにすぐにアップできました。クラウドという柔軟なシステムを利用するメリットを早速享受することができました。(神子島氏)

神子島氏は、分析の専門家(データサイエンティスト)を3名採用し、分析に必要なデータインフラを設計できるデータエンジニアを1名採用し、分析の専門家に関する人的制約を解消することができました。しかし、この4名の採用は、データ科学研究課が社内のすべてのデータ分析作業を行なうためではありません。事業部(LOB)は、データ分析の専門家ではありませんが、分析結果をビジネスにつなげる主体は彼らです。データ科学研究課は、LOBが分析のスキルを身につけ、分析スキルをアップするためにアドバイスや支援を行ないます。

「入社直後に加わったあるデータ分析プロジェクトでは、関係者間での議論が分析的な内容に偏り、LOBの納得感を得ることができていませんでした。その後、分析結果を新たなビジネス価値につなげるにはどうすべきかを常に意識して議論する形に変えたところ、関係者が本当にやりたいことや、これができるなら、こうできないかといった前向きな意見が活発に出るようになりました。実は、LOBが理解しやすいように、データを時系列に可視化し、分かりやすい言葉を使って説明しただけで、特別な分析を行なったわけではありません。データサイエンティストは、分析モデルにこだわるのではなく、LOBの意図を正しく理解し、これからやるべきことに注力し、支援することが大切だとあらためて認識しました。」

神子島氏は、今回のデータ分析プロジェクトを成功に導いたAITの支援について、次のように言及しました。「課のITリソースが限られていたので、業務に合った分析環境の構築、構築後の運用管理についての支援が必要でした。ベンダーからSPSSのパートナーとして紹介されたAITは、ざっくりとした構想の段階にも関わらず、構想を具体化するために丁寧でスピーディな回答を返してくれました。データ分析のために最適なデータベースの在り方やデータの構造などについて会話を重ね、具体的なシステムイメージを固めていきました。漠然とした分析システムの構想から具体的な実装イメージを固める段階で、AITから「これはどう考えていますか。もし、まだ決めていなければ、これが良いと思います。」といった形で適切なアドバイスを得ることができました。さらに、AITが提供するクラウド環境の監視サービスにより、運用管理についても不安が無くなりました。プロジェクトのメンバーは分析業務と課題解決に専念することができました。AITからの支援に深く感謝しています。」

3. 今後の展望
 新たな価値を創造するデータ分析

従来、製品納入後のメンテナンスは、お客様に近い地元の業者が行うのが一般的でした。そのため、納入した製品が、いつどのようなメンテナンスを受けたかの情報がないということもありました。

LOBはこれではいけないと気付き、部品交換などを含む新たなサービス&サポートを検討しています。LOBが主体となって、お客様にとって魅力あるサービスを考え、お客様に新たな価値をもたらすビジネスを創造することが、データ分析プロジェクトの真のゴールです。データ科学研究課は、データを活用し、新たな価値を生み出すための「黒子」に過ぎないと考えています。

LOBがプロジェクトをリードする2020年は、「結果を出す」年と位置づけられています。常に新しいビジネスチャンスにチャレンジする荏原製作所。新たな価値を創造するためのデータ分析基盤として、SPSSとAWSクラウドサービスは、今後ますます活用されることが見込まれます。

※掲載内容は、取材当時のものです。

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